リエンジに失敗したら、Aリコ全体の収益に大きな打撃をもたらす可能性がある」「確かに、何もしなければ売上げが喰われる危険性が高い。
Jエミニが指摘するような急激な落ち込みは現実味がない」とりわけ、改革の対象として真っ先に名をあげられた支社マーケティング本部では、かなりの戸惑いと反発が見られた。
Sリシターと呼ばれる営業社員を通じて代理店の販売活動をサポートする支社マーケティング本部は、創業期からAリコジャパンの成長を支えてきた主力販売部門である。
現在でこそ、Aリコの販売ラインは、という3つのラインに大別され、競い合いながら強力な販売力を生み出しているが、支社マーケティング本部には、「われこそ本流なり」という創業以来のプライドがある。
しかも、長引く不況にもかかわらず、業績は好調に推移しているのだ。
「なぜ、自分たちだけが…」支社マーケティング本部本部長であるA津信行(現取締役本部長)が、強い戸惑いと疑問を感じたのも無理からぬ話だった。
一方の直販営業部隊(エイジェンシーマーケティング本部)を率いる専務取締役のY本信嘉も、こう反論したという。
「営業の要諦の1つに、顧客との触れ合いがある。
現場の状況をキチンと観察せず、現場の意見を聞かないまま効率優先の導入を行えば、コールセンターがコールドセンターになり、これまでの営業努力が水泡に帰す恐れがある」Jエミニによる状況分析は妥当としながらも、実行段階での可能性を懸念する声は社内にも根強かった。
「Jエミニはヨーロッパでの実績はあっても、日本での可能性は未知数に近い」「リエンジの実績はあるにしても、情報通信技術面での実績は大丈夫なのか」「コールセンターにしても、ワークフローにしても、日本初のシステムが多い。
まだこなれていないものを導入して、本当に大丈夫なのか」なかでも、管理職や一般社員の賛同を得られるかどうかは最大の懸案事項だった。
実は、その前年、Aリコの経営企画部がある戦略案を完成させていたが、その戦略案は社員に浸透することなく、1年経った時点でも何1つ形になっていなかったからだ。
Aリコだけが抱える問題ではない。
社長のT園の言葉にもあったように、現場の社員たちは常に目先の仕事に追われている。
上層部がどんなに立派な改革案を立案.提示しても、社員にとっての最優先事項は、今日明日のアポイントメントや契約である。
仕事を放り出して改革に奔走しても、評価されるどころか上司に煙たがられるのが落ちだ。
会社を変革するためには、きれいごとでは済まない。
経営陣や部長クラスが自らのキャリそんなすきまじいエネルギーを必要とする経営改革が、今日や明日の仕事に追われる管理職や社員たちを巻き込んで、本当に推進できるのだろうか。
Aリコの外国人役員のなかに経営コンサルタント出身者がいたことも、Jエミニを見る目を厳しくさせていた。
野球でいえば、Jエミニ側のスタッフがメジャーリーグに属する選手なのかマイナーリーグに属する選手なのか。
コンサルティング.フィーは、妥当かどうか。
細部にわたって、徹底的な検証が行われた。
「競合のAンダーセンやBストンコンサルティング、Mキンゼーよりは使えそうだ。
会社の将来や経営陣のキャリアを賭ける以上、ベストのスタッフを揃えてくれるパートナーを選びたい」この時点におけるAリコジャパン首脳の本音だった。
1995年7月。
慎重に慎重を期すAリコジャパン首脳陣は、Jエミニを含むコンサルティング各社に対し、経営改革プロジェクトの外部パートナーを決めるための最終コンペを行うことを通告した。
各社は、いっせいに最終提案書の作成に入った。
7〜8月は、Aリコジャパンにとって来年度の予算を審議する重要な時期だ。
この期間をしまう。
管理職がその意義を心底から理解し、社員もまたその変革を自らのものとして考え行動しなければ、どんなに素晴らしいアイディアも絵に描いた餅に終わってそう考えたからだ。
この期待どおり、T園や外国人役員で構成されたAリコの視察団は「Jエミニが何を提供したか」「どのような成果が実現したか」「Jエミニの日本人スタッフでリエンジの実力があるのは誰か」などを、1日がかりで徹底的に調べ上げた。
その視察の厳密さは、訪問を受け入れたクライアントの経営者や中間管理職、リエンジの実務部隊の面々が舌を巻くほどだったという。
「あんなにうるさい人たちのいる会社のコンサルなんかやって、大丈夫?」利用して各社の提案書の審議を行うことになり、当然AリコとJエミニの接触も途絶えた。
8月には、Aリコの内部で重要な動きが始まる。
社長のT園が、社内プロジェクトメンバーの選抜に手をつけ始めたのだ。
これについては、次項で詳しく述べることにしたい。
さて9月に入ると、AリコはJエミニに対して「Jエミニが実際にリエンジをサポートしたクライアントを訪問視察する機会を設けてほしい」と要求した。
受けてJエミニは、1994年春から1年間かけてリエンジを行った欧州系大手投資銀行の日本法人を紹介し、視察訪問の段取りをつけた。
この訪問に際して、Jエミニは立ち会わなかった。
「クライアントには率直な感想を語ってもらい、Aリコにはあるがままの姿を見てもらいたそのなかのひとりは、Jエミニ日本支社代表のT田に対して冗談まじりにこう畷いたらしT田自身も、調査段階から貫かれた「一円の無駄も出すまいとするコスト意識」に、「さすがトリプルAカンパニーの日本支社」と何度も吃らされたという。
この視察訪問を経て、Aリコの経営陣はようやくJエミニの実力に納得したようだ。
比較的予算の低いフェーズ0(調査.分析段階)プロジェクトを、条件付きでJエミニと共同で開始することに合意した。
その条件とは、「Jエミニ側のメジャーリーガー(実力者)が必ずプロジェクトに参加すること」というものだった。
Aリコが最終的にJエミニを選択した理由は、一般的なコンサルティング会社のように「こうしなさい」と頭ごなしにでき合いの改革手法やシールを押しつけるのでなく、会社に入り込み、社員と一緒になってベストの解決法を探しながらあるべき姿の実現に向かってともに行動するという姿勢を評価したからだった。
何よりもまず、「社員の心が変わらなければ会社は変わらない」との主張と実践が、T園をはじめとする役員たちの気持ちを大きく動かした。
話が少しさかのぼるが、ここでコンサルティング会社選定に入った1995年8月におけるAリコ側の動きを追いかけてみよう。
8月の暑い1日、セールスプロモーション部部長のF井は突然社長室に呼ばれた。
社長室にはT園のほかに数人の役員や部長がいたが、今となってはハッキリ覚えていない。
そのときの話に強いショックを受けたからだった。
「今度、思い切ったエンジニアリングに取り組むことになった」「ついては、プロジェクトのチームリーダーをやってほしい」「スタッフは好きな社員を選んでいいから」T画の口から語られる経営改革の概要に耳を傾けながら、F井は呆然としていた。
また、販売代理店や直販営業社員などが携帯パソコンを使って保険商品のプレゼンテーションをしたり、顧客に最適な保険内容を提示する設計書を作成したりするための営業支援シール、ALEX(Aリコ.ライフ.エキスパート.システム)のつくり込みなども手がけていた。
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